1. 導入:なぜ『PS純金』は金曜夜の「習慣」となったのか
一週間の仕事や学校を終え、ようやく訪れた金曜日の夜。東海エリアのリビングで、リモコンが吸い寄せられるようにチャンネルを合わせる先――それが中京テレビの『PS純金(ピーエスゴールド)』です。19:00の時報とともに流れる軽快な音楽、そして「高田純次」という希代の適当男と「藤森慎吾」というハイテンションなチャラ男(の皮を被った実力派MC)の掛け合いが始まると、視聴者は「ああ、今週も終わったな」という安堵感と、「今夜は何を食べに行こうか」という根源的な欲求に包まれます。
「ローカルの逆襲」:中京テレビが生んだ全国区の熱狂
かつて、地方のローカル番組といえば「キー局の番組の二番煎じ」や「低予算ゆえの緩さ」が定石でした。しかし、『PS純金』はその概念を根底から覆しました。番組が提示するのは、東京の流行を追いかけることではなく、**「足元の地面を深く掘り下げる」**という徹底したローカル至上主義です。
具体的には、名古屋市内の有名店を紹介するだけにとどまりません。岐阜の山奥にある「なぜこんな場所に行列が?」という秘境店や、三重の漁師町で愛される「安すぎて計算が合わない」食堂など、スタッフが泥臭く足で稼いだ情報が並びます。この「誰も知らないけれど、隣町にある凄い場所」を見つけてくる取材力こそが、全国放送のグルメ番組には真似できない圧倒的なリアリティを生んでいます。今やその熱狂は東海三県に留まらず、民放公式テレビ配信サービス「Locipo(ロキポ)」などを通じて、全国のテレビマンが「あんな演出、うちでもやりたい」と羨望の眼差しを向ける、ローカルバラエティの最高到達点となっているのです。
「やっぱり地元はオモシロい!」という魔法のキーワード
番組の根幹を支えているのは、放送の冒頭でも高らかに宣言される**「やっぱり地元はオモシロい!」**というスローガンです。この言葉には、単なる地域情報の提供を超えた、視聴者の「シビックプライド(郷土愛)」を全肯定する力があります。
例えば、放送内で紹介されるのは、必ずしも「お洒落なカフェ」や「洗練されたレストラン」ばかりではありません。むしろ、床が少し油っぽかったり、店主が独特の癖を持っていたりする、いわゆる「キタナシュラン」的な要素を持つ店も多く登場します。しかし、番組はそれらを揶揄するのではなく、店主の情熱や、そこを支える常連客の笑顔とセットで描き出します。視聴者は画面越しに、「自分の住んでいる街には、こんなにパワフルで面白い人がいるんだ」という誇りを感じるのです。この「肯定のループ」こそが、番組と視聴者の間に強固な信頼関係を築き上げ、10%を超える高視聴率を安定して叩き出す原動力となっています。
「純次×慎吾」がもたらした番組の黄金期
現在の『PS純金』を語る上で欠かせないのが、出演陣の絶妙な化学反応です。特に、2015年のリニューアルからコンビを組む高田純次さんと藤森慎吾さんの関係性は、まさに「黄金比」と言えます。
高田純次さんは、御年70代を超えてなお、その「適当」という名の芸術を爆発させています。店主が真面目に料理の説明をしている最中に「これ、美味しすぎて気絶しちゃった!」とボケをかまし、美人な店員さんがいれば「お父さんは、僕みたいな素敵な人と結婚してほしいって言ってない?」と軽口を叩く。この、いい意味での「緊張感の欠如」が、番組に特有の多幸感をもたらしています。 一方で、その手綱を握る藤森慎吾さんの進行能力も特筆すべきです。彼は長野県出身ということもあり、適度に「余所者」の視点を持ちつつも、今や名古屋の「愛すべき孫」のようなポジション。高田さんのボケを瞬時に拾ってツッコミを入れ、時にはゲストのアイドルを立て、視聴者が抱くであろう「いや、それ安すぎでしょ!」という疑問を代弁する。この二人のスピード感あふれるラリーが、56分という放送時間を一瞬に感じさせるのです。
2. 基本データ:30年以上の歴史を紡ぐ「PSシリーズ」の系譜
テレビ業界において、30年以上も同一タイトル(あるいはシリーズ)がゴールデンタイムで愛され続けることは、まさに奇跡に近いと言えます。中京テレビの金曜夜は、1994年のスタート以来、常に『PS』という記号と共にありました。このセクションでは、単なるバラエティ番組を超えた「地域インフラ」としての歩みを紐解きます。
『PS』から『PS純金』へ:放送枠とタイトルの変遷
現在の『PS純金(ピーエスゴールド)』に至るまで、このシリーズは時代に合わせてその姿を変えてきました。始まりは1994年放送開始の『PS』。当時は上沼恵美子さんと高田純次さんという、東西の大物によるダブルMC体制でした。その後、2013年からは『PS三世』としてオリエンタルラジオの二人を軸に若返りを図り、2015年4月に現在の『PS純金』へと結実しました。
このタイトルの変遷において特筆すべきは、「高田純次」という軸を一度手放しながらも、再び呼び戻したという制作陣の決断です。1990年代の『PS』を知る世代にとっては懐かしく、YouTubeやSNSで藤森慎吾さんを知った若い世代にとっては新鮮。タイトルに冠された「純金」は、高田「純」次さんと「金」曜日を掛け合わせたものですが、同時に「混じり気のない、地元への愛」という意味も込められているように感じられます。この、新旧のファンを切り捨てないブランド戦略こそが、長寿番組の秘訣なのです。
中京テレビ「金曜19時」という聖域の防衛
民放各局がしのぎを削る金曜19時。東京のキー局は、多額の制作費を投じた全国ネットのクイズ番組や動物番組、人気アイドルの冠番組をぶつけてきます。しかし、東海三県(愛知・岐阜・三重)において、その厚い壁を跳ね返し続けているのが『PS純金』です。
驚くべきは、その「圧倒的な勝率」です。番組の平均視聴率は常に2桁をキープしており、時には同時間帯の民放トップ、さらにはNHKをも凌駕することが珍しくありません。なぜこれほどまでに強いのか。それは、視聴者にとって『PS純金』が**「今すぐ行ける場所の情報」**だからです。全国ネットの番組が紹介する「東京の行列店」は、地方の視聴者にとっては画面の向こうの出来事。しかし、『PS純金』が紹介する「一宮のモーニング」や「四日市のトンテキ」は、明日の朝、車を走らせれば体験できる現実です。この「自分事化」させる力の差が、数字となって現れているのです。
放送時間56分に凝縮された「中京圏限定」の超濃密情報
番組の放送時間は19:00から19:56までの56分間。この限られた時間の中に、スタッフは信じられないほどの情報量を詰め込みます。番組の基本スタンスは、とにかく「徹底的な地域密着」です。
例えば、愛知県内だけでも「尾張」「三河」で食文化が異なることを繊細に汲み取り、時には「市民しか知らない超ローカルな交差点」の名前がテロップに躍ります。紹介される店も、ネット予約ができるようなスマートな店より、**「地元の頑固親父が30年守り続けている、看板のない店」**のような、アナログで掘り出し物感のある場所が優先されます。 また、番組特有のテンポの良さも特筆ものです。1つのVTRに対して、スタジオの高田さんや藤森さんが入れるツッコミの回数は、通常のバラエティの数倍に達します。情報をただ流すのではなく、常に「視聴者の目線」でいじり、驚き、笑う。この56分間は、東海エリアの住民にとって、自分の住む街を再発見する「濃密なエンターテインメント・ツアー」となっているのです。
3. 番組の歴史・制作背景:視聴者を飽きさせない「攻め」の演出
『PS純金』がこれほどまでに支持される理由は、単に美味しい店を紹介しているからではありません。そこには、バラエティ番組としての「見せ方」に対する狂気じみたこだわりと、取材対象である店主たちへの深いリスペクト(と、ちょっぴりの悪戯心)が込められています。
「過剰なサービス」を笑いに変える企画立案の裏側
番組の代名詞とも言えるのが、「コーヒー1杯の値段でこれだけ付いてくる!」といった、東海地方特有の過剰なサービス精神をフィーチャーした企画です。しかし、スタッフが探しているのは単なる「お得な店」ではありません。彼らが追い求めているのは、**「サービスが行き過ぎて、もはや経営が心配になるレベルの店」**です。
具体的には、おまけの小皿が机に乗り切らないモーニングや、原価を無視したデカ盛り料理など。スタッフはこうした店を見つけ出すために、SNSの断片的な情報だけでなく、地元住民への聞き込みや、何日にもわたる張り込み調査を行います。企画会議では「なぜこの店主は、こんなに安く出しているのか?」という、店主の「情熱の源泉」が議論の核になります。単なるコスパの紹介ではなく、「サービスしすぎちゃう店主の人間味」を面白がる視点こそが、企画の出発点なのです。
テロップと編集に宿る「悪意ある愛」
『PS純金』を語る上で、あの独特な「テロップワーク」を無視することはできません。店主のちょっとした言い間違いや、不器用な接客、あるいは調理中の癖などを、スタッフは逃さず拾い上げ、絶妙なフォントとタイミングでツッコミを入れます。
例えば、店主が「うちは全然儲かってないよ」と言いながら高級車に乗っていたり、謙遜しながらも実はものすごい経歴を持っていたりする場合、画面には**「※嘘つき店主」「※盛りすぎ注意」**といった、一見すると失礼とも取れる大胆なテロップが躍ります。しかし、これが決して不快にならないのは、その根底にスタッフと店主の間に築かれた「愛」があるからです。 編集マンは、VTRのテンポをあえて崩すことで笑いを生み出したり、高田純次さんの適当なコメントを逆手に取ったカット割りをしたりと、1フレーム単位で「笑いどころ」を作り込んでいます。この、手作り感がありながらも計算され尽くした編集術が、番組に中毒性をもたらしているのです。
制作秘話:現場スタッフと店主の「信頼(あるいは根比べ)」
番組のロケは、驚くほど時間をかけて行われます。一般的なグルメ番組が数時間で撮影を終えるのに対し、『PS純金』のスタッフは数日、時には数週間にわたって店に通い詰めることも珍しくありません。
制作現場からの漏れ聞こえる話によれば、最初は取材を断っていた頑固な店主が、スタッフの熱意(あるいは、あまりのしつこさ)に根負けし、「お前らがそこまで言うなら、全部見せてやるよ」と心を開く瞬間があると言います。その結果、普段は見せない厨房の裏側や、店主の家族とのやり取り、そして**「安く提供し続ける本当の理由」**といった、視聴者の涙を誘うような本音がカメラに収められるのです。 番組を支えるディレクターたちは、単に映像を撮る人ではなく、店主の一番の理解者になろうと努めています。この「密着」によって生まれる信頼関係が、画面越しに伝わる「熱量」へと変換されているのです。
4. 主要出演者・スタッフの徹底分析:この3人でなければ成立しない
『PS純金』の魅力は、情報の質もさることながら、その情報を料理する「出演者の人間味」にあります。一見バラバラに見える個性が、中京テレビのスタジオという空間で混ざり合ったとき、他局では絶対に出せない「PS特有のグルーヴ感」が生まれます。
高田純次:適当男が時折見せる「食への真実味」
番組の精神的支柱であり、最大の「不確定要素」が、高田純次さんです。彼の役割は、情報の「解体」にあります。スタッフが心血を注いで作ってきた真面目なVTRに対し、「いやぁ、これ食べたら、もう明日死んでもいいよね。……あ、嘘、やっぱり100歳まで生きたい!」といった、100%適当なコメントを被せていく。
しかし、不思議なことに、彼が「これ、本当にウマいね」とポツリと漏らす瞬間、その言葉には絶大な説得力が宿ります。何十年も芸能界の荒波を渡り歩き、美味しいものを食べ尽くしてきた高田さんが、地方の古い食堂の中華そばを啜って見せる、少年のような笑顔。この**「究極の適当」と「不意の真実」のギャップ**こそが、視聴者を惹きつけて離さないのです。店主に対しても、失礼ギリギリのジョークを飛ばしながら、最後には相手の懐にスッと入ってしまう。この高等技術は、高田純次という人間にしか成し得ない「芸」と言えるでしょう。
藤森慎吾:中京圏の「孫」ポジションを確立した調整力
高田純次という「動く台風」をコントロールし、番組を1つのエンターテインメントとして成立させているのが、藤森慎吾さんです。彼の凄さは、単なる「回し役(進行役)」に留まらない、圧倒的な「当事者意識」にあります。
藤森さんは、番組内で紹介される「やりすぎ店主」や「激安グルメ」に対して、視聴者が心の中で叫んでいる「いや、計算合わないでしょ!」「盛りすぎだって!」という声を、誰よりも早く、そして的確なテンポで言語化します。また、彼は自身のYouTubeチャンネルなどでも見せる通り、非常にストイックで勉強熱心な一面を持っています。中京圏の地理や特産品についても、ロケを重ねるごとに知識を深め、今や地元住民からも**「慎吾くん」と親しまれる、親戚の孫のような存在**になりました。高田さんのボケを完璧にレシーブし、ゲストを立て、店主の想いを汲み取る。彼の「受けの美学」がなければ、番組は空中分解しているはずです。
名物ナレーターとスタッフ:声と文字で語る「第三の主役」
『PS純金』を語る上で絶対に忘れてはならないのが、画面には映らない「制作者たちの声」です。特に、番組のナレーションは、情報の伝達手段という枠を超え、番組の「人格」そのものを形作っています。
小気味よいテンポで、時には店主を煽り、時には視聴者に語りかける独特の語り口。そして、それに応じるように画面を埋め尽くす「ツッコミテロップ」。これらは、スタジオの出演者と一体となって、一つの大きなコントを作り上げているかのようです。 例えば、VTR中にディレクターが店主に「それ、安すぎませんか?」としつこく食い下がるシーン。本来ならカットされるようなスタッフの「生の声」をあえて残すことで、**「番組を作っている側の人間も、この店に驚いているんだ」**という共感を視聴者に与えます。出演者、ナレーター、そして現場のディレクター。この三位一体のチームワークが、番組に「手作り感のある熱量」をもたらしているのです。
5. 伝説の「神回」アーカイブ:語り継がれる爆笑と感動のエピソード
『PS純金』が怪物番組と呼ばれる所以は、数年に一度、テレビの常識を軽々と飛び越える「スター」や「光景」を爆誕させる点にあります。ここでは、番組ファンなら誰もが頷く、珠玉の神回を詳細にアーカイブします。
「しおりさん」という名の衝撃:伝説のスーパー素人の誕生
番組史上、最大の衝撃と言っても過言ではないのが、名古屋市東区の「しおりさん」の登場です。初めは「凄腕の塾講師が営む、安くて美味い店」という紹介でしたが、回を追うごとにその底知れぬスペックが露呈。料理の腕前はプロ級、塾では子供たちの心を掴み、さらにはスキー、陶芸、大型バイク、そして「ヒューマヒューマ(番組内での独特の表現)」……。
特に神回として語り継がれるのは、彼女(彼)の**「生き様」が全開になった密着回**です。多忙を極める日常の中で、一切の妥協なく他者のために尽くす姿。高田純次さんが「この人には勝てないよ」と脱帽し、藤森さんが「カッコよすぎる!」と絶叫したあの放送は、バラエティの枠を超えた人間ドキュメンタリーでした。しおりさんが番組に登場するたび、視聴率は跳ね上がり、彼女の店には全国からファンが詰めかけるという、一人の素人が地域経済を動かす社会現象を巻き起こしたのです。
「2階から麺」!?度肝を抜くサービス店主たちの競演
『PS純金』の真骨頂は、物理法則や常識を無視した「過剰サービス店」の発見にあります。中でも視聴者の度肝を抜いたのが、**「2階から麺が降りてくる」**という斬新すぎる配膳スタイルを貫く店や、注文していない料理がわんこそば状態で運ばれてくる定食屋のエピソードです。
具体的には、コーヒー1杯(約400円)を頼んだだけで、トースト、ゆで卵、サラダ、さらにはうどんやカレーまで付いてくる「逆詐欺」モーニングの回。スタッフが店主に「儲けはあるんですか?」と尋ねると、「お客さんの笑顔が見たいからね」と、赤字を笑い飛ばす店主の姿が映し出されました。この「サービスという名の暴走」を、番組は愛情たっぷりに「やりすぎ」と断罪しつつも、その裏にある店主の孤独や、客への深い愛情を丁寧に描き出しました。画面越しの「おいおい、やりすぎだろ!」というツッコミが、いつの間にか温かい感動に変わる……これこそが番組の魔法です。
「安すぎと言いたいだけ」:視聴者が総ツッコミを入れた価格崩壊回
番組の名物企画「安すぎと言いたいだけ」シリーズも、外せません。これは、あまりにも価格設定が安すぎる店に対し、高田さんや藤森さんがスタジオで「安すぎ!」と叫ぶだけのシンプルな構造ですが、その中身は驚愕の連続でした。
例えば、**「おにぎり1個50円」「定食300円」**といった、昭和初期から時が止まったかのような価格設定。スタッフが徹底的に原価を計算しようと試みますが、店主が「計算したことない」と一蹴するシーンは爆笑を誘いました。しかし、そこには「近所の学生にお腹いっぱい食べてほしい」という店主の願いや、亡き先代との約束など、安さの裏にある「物語」が必ず隠されています。単なる激安紹介に終わらせず、その価格に込められた「意地」を浮き彫りにした回は、多くの視聴者の涙腺を刺激し、放送後には「この店を潰してはいけない」という支援の輪が広がることも珍しくありません。
6. 視聴者の熱狂とコミュニティ分析:SNSを席巻する「PS現象」
『PS純金』は、ただ「観る」だけの番組ではありません。放送が始まればSNSが燃え上がり、翌朝には街の景色が変わる。そんな、視聴者の行動をダイレクトに突き動かす「参加型エンターテインメント」としての側面を持っています。
ハッシュタグ「#PS純金」に集う、特濃の地元愛
金曜日の19時、X(旧Twitter)のトレンドには、高確率で「#PS純金」の文字が並びます。ここで繰り広げられているのは、単なる感想の言い合いではなく、**「地元民による情報の補完と答え合わせ」**です。
例えば、ある店が紹介されると、即座に「ここ、うちの近所!」「ここの大将、実は昔○○だったんだよ」といった、番組のVTRをさらに深掘りするような投稿が次々と寄せられます。スタッフが仕掛けた細かい編集や、高田純次さんの適当な発言に対し、視聴者が一斉にツッコミを入れる。このリアルタイムの連帯感は、地方局の番組としては異例の熱量です。視聴者はテレビを観ながらスマホを片手に、東海エリアという巨大な「茶の間」で一緒に盛り上がっているような感覚を共有しているのです。
「PSに出た店は行列ができる」:地域経済を動かす影響力
東海エリアの飲食店主にとって、この番組に取り上げられることは、ある種「宝くじに当たる」以上のインパクトを持ちます。放送翌日の土曜日、紹介された店の前には、開店前から長い行列ができるのが「お約束」の光景。これが世に言う**「PS特需」**です。
具体的には、これまで地元の人しか知らなかった路地裏のパン屋が、放送から1週間で1ヶ月分の在庫を売り切ったり、サーバーがダウンして注文が止まらなくなったりといった事例が後を絶ちません。驚くべきは、その影響力の持続性です。一度番組で「キャラ立ち」した店主や看板メニューは、数ヶ月、数年経っても「PSに出てたあのお店」として認知され続けます。番組が地域経済を活性化させる「起爆剤」となっており、自治体や観光協会ですら無視できないほどの社会的なパワーを持っているのです。
ファン共通言語:「罪悪感飯」「逆詐欺」などの名フレーズ
番組内での独特の言い回しや表現が、ファンの間で「共通言語」として定着しているのも大きな特徴です。
例えば、バターやチーズを大量に使った高カロリーだが出抗えない料理を指す「罪悪感飯(ざいあくかんめし)」や、写真よりも実物の方が豪華で大きいことを指す「逆詐欺(ぎゃくさぎ)」といった言葉。これらは、今や東海エリアのグルメ好きの間では一般名詞のように使われています。 また、番組特有の「※スタッフが美味しくいただきました」的なお決まりのテロップや、特定のBGMが流れた瞬間に「あ、次はあのコーナーだ!」と察知するファン独自の様式美も存在します。こうした**「内輪ネタ」を地域全体で共有している感覚**が、ファン同士の結束を強め、「自分たちの番組」という帰属意識を醸成しているのです。
7. マニアが唸る「重箱の隅」ポイント:細部に宿るこだわり
『PS純金』の魅力は、表層的な爆笑だけではありません。録画をコマ送りで見返すほどのマニアたちは、番組が仕掛ける「微細な演出」にこそ、中京テレビのプライドを感じ取っています。ここでは、一般の視聴者がつい見逃してしまうような、制作陣の遊び心とテクニックを紐解きます。
BGMの選曲センス:昭和歌謡から最新ヒット曲までの「ダジャレ選曲」
番組を音だけで聴いてみると、その選曲の異常なまでの「こだわり」に気づかされます。基本的には、紹介する料理や店名、あるいは店主のセリフにリンクさせた**「音のダジャレ」**で構成されているのです。
例えば、大量の「お酢」を使った料理が登場すれば、一世風靡セピアの『前略、道の上より』(ソイヤ!の掛け声が「酢」に聞こえる、あるいは「素」の連想)が流れ、エビフライが画面に映れば、即座にABBAの楽曲がカットインする。店主が「もう、お手上げだよ」と嘆けば、ピンク・レディーの『サウスポー』や『UFO』のイントロが絶妙なタイミングで差し込まれます。 さらに、最新のJ-POPやアニメソングを、あえてその歌詞の一節だけを抽出して「店主の心情代弁」に使う高度なテクニックも。このBGMのパズルは、音響効果スタッフとディレクターによる、視聴者への挑戦状とも言えるでしょう。
絶妙なカメラワーク:料理を「最も暴力的に」見せる技術
『PS純金』の「飯テロ」性能が高いのには、明確な技術的理由があります。それは、料理の「断面」と「シズル感」に対する執着です。
一般的なグルメ番組よりも、カメラの寄り(クローズアップ)が一段と深く、箸で肉を持ち上げた瞬間の肉汁の揺れや、揚げたての衣が弾ける音を、**「暴力的なまでの迫力」**で捉えます。特に注目すべきは「湯気」の捉え方です。背景を暗く落とし、逆光気味にライティングすることで、画面いっぱいに広がる熱々の湯気を強調します。 また、ドローンを駆使して「名古屋の街並みから、いきなり店のカウンターの一皿まで」を一気にズームインするようなダイナミックなカット割りも、ローカル番組とは思えないクオリティを誇っています。視聴者の胃袋を直接掴みにいく、この「攻めのカメラワーク」こそが番組の生命線です。
スタジオセットの隠れたギミックと衣装の秘密
最後に、高田純次さんと藤森慎吾さんが鎮座するスタジオセットについても触れなければなりません。セットの随所には、過去に番組に登場した「伝説の店主」たちの写真や、番組内で生まれた名言が書かれた小道具が隠しアイテムのように配置されています。
衣装についても、実は緻密な計算がなされています。高田純次さんのジャケットスタイルは、彼の「適当な紳士」というキャラクターを象徴する、派手すぎず地味すぎない絶妙なライン。一方で、藤森慎吾さんの衣装は、その日のロケVTRのテーマカラーや、ゲストの雰囲気に合わせて細かくトーンが調整されています。 また、スタジオに置かれたテーブル上の小物も、実は放送回ごとに微調整されており、**「前回の放送で話題になったアイテム」**がひっそりと置かれていることも。こうした、気づくか気づかないかギリギリのラインの「イースター・エッグ(隠し要素)」を探すことこそ、真のPSマニアの愉悦なのです。
8. 総評と未来予測:テレビ界における『PS純金』の意義
30年以上の長きにわたり、中京圏の金曜夜を彩ってきた『PS』シリーズ。その最新進化形である『PS純金』は、単なる地方のバラエティ番組という枠組みを完全に超越しました。最後に、この番組がテレビ界に投じた一石と、その先に待つ未来について考察します。
「究極のローカル」は「究極のグローバル」になり得るか
かつて「ローカル番組」は、その地域でしか通用しないドメスティックなものとされてきました。しかし、『PS純金』が証明したのは、**「半径5キロメートルの熱狂は、国境をも超える」**という事実です。
動画配信プラットフォーム「Locipo」や「TVer」の普及により、今や東京の視聴者が「しおりさん」に熱狂し、九州の若者が「名古屋の逆詐欺モーニング」を求めて旅をする光景が当たり前になりました。店主の強烈なキャラクターや、過剰すぎるサービス精神といった「人間の根源的な面白さ」は、地域を問わず共感を呼ぶコンテンツなのです。今後、この「中京クオリティ」の編集と演出術がさらに磨かれれば、日本全国、さらにはアジア圏を席巻するような「ハイパー・ローカル・バラエティ」としての地位を確立するに違いありません。
テレビ離れを食い止める「参加型バラエティ」の未来形
若者のテレビ離れが叫ばれて久しい現代において、『PS純金』は一つの回答を示しています。それは、テレビを**「視聴者の生活を動かすリモコン」**にすることです。「番組で見たあの店に、明日行ってみよう」「あの店主に会いに行こう」――そう思わせる力こそが、メディアとしての真の価値です。
SNSとの親和性を高め、視聴者からの情報投稿を番組の主役に据える。この「作り手と受け手の境界線」を限りなく透明にしていくスタイルは、今後の地上波放送が生き残るためのバイブルとなるでしょう。『PS純金』は、一方的な情報発信ではなく、地域住民との「終わらない会話」を続けているのです。
結びに:私たちはなぜ、金曜19時に中京テレビをつけてしまうのか
一週間の疲れがピークに達する金曜日の夜、私たちが求めているのは、小難しい社会情勢でも、作り込まれた虚構のドラマでもありません。そこにあるのは、**「今日も誰かが、どこかの街で、一生懸命に(そして少しおかしなほどに)美味しいものを作っている」**という安心感です。
高田純次さんの適当な笑い声と、藤森慎吾さんの小気味よいツッコミ、そして画面からはみ出さんばかりの料理の数々。それらは、明日から始まる休日への最高のプロローグとなります。「やっぱり地元はオモシロい!」――そのシンプルで力強い肯定感こそが、私たちがこの番組を愛してやまない最大の理由なのです。
