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日本における104番号案内サービスの終了と通信ユニバーサルサービスのパラダイムシフト

目次

通信インフラの歴史的転換点としてのサービス終了

日本の通信史において、一世紀以上の長きにわたり国民の生活を支えてきた重要な社会基盤が、今まさにその役割を終えようとしている。東日本電信電話株式会社(NTT東日本)および西日本電信電話株式会社(NTT西日本)は、電話番号案内サービス(104番)および「NTTファクス104」を2026年3月31日をもって終了することを正式に発表した1。この決定は、単なる一企業の事業見直しという枠組みを超え、明治から令和に至るまで積み上げられてきた「声」による情報アクセスの文化が、完全にデジタル・ネイティブな検索環境へと移行したことを象徴する歴史的な出来事である4

番号案内サービス「104」は、1890年(明治23年)の電話事業創業と同時に開始されたものであり、135年という歳月は日本の近代化と歩調を合わせてきた4。かつて電話機が限られた特権階級の道具であった時代から、一家に一台の加入電話が普及した高度経済成長期、そして一人一台のスマートフォンを所有する現代に至るまで、104番は常に「未知の相手と繋がるための最後の砦」として機能してきた4。しかし、インターネット検索の日常化とスマートフォンの普及は、人々の情報探索行動を根底から覆した8。オペレーターを介したアナログな案内から、アルゴリズムによる瞬時のデータ検索へのシフトは不可逆的な流れであり、104番の利用件数はピーク時の1%程度にまで激減している4

本報告書では、104番号案内サービスが終了に至った構造的な要因を分析し、その歴史的意義を振り返るとともに、サービス終了が社会に与える多面的な影響を検証する。特に、情報アクセシビリティの観点から懸念されるデジタルデバイドの問題や、障がい者向け支援策の再編、そして「タウンページ」に代表される紙媒体の電話帳文化の終焉が意味する社会変容について、専門的な見地から詳述する。

電話番号案内135年の歴史的考察と社会的役割

電話番号案内サービスの起源は、日本で初めて電話交換業務が開始された1890年(明治23年)12月16日にまで遡る4。当時の加入者数は東京で155、横浜で42という極めて限定的な規模であり、交換手が手動で接続を行う過程で、相手の番号が不明な場合に問い合わせを受けるという業務は必然的に発生した4

黎明期から特番定着までの変遷

サービス開始当初は、現代のような3桁の特番は存在せず、案内業務は交換業務の一部として未分化の状態であった。その後、通信需要の拡大に伴い、案内専用の受付番号が設定されるようになる。明治29年には東京で「500番」が割り当てられ、大正15年の自動交換方式の導入を機に「100番」へと集約された4。現在の「104」という番号が定着したのは、1953年(昭和28年)の東京における局番再編時であり、市内案内を104番、市外案内を105番とする区分が確立された4

年代主要な変遷とマイルストーン関連する技術・社会状況出典
1890年電話事業創業と同時に案内業務開始東京・横浜間での交換業務開始4
1896年案内受付番号を「500番」に設定(東京)加入者数の増加に伴う業務分立4
1926年局番なしの「100番」へ統合自動交換機の導入と全国統一化4
1953年市内案内「104」、市外案内「105」へ東京の局番大掛かりな再編成4
1972年市外局番+「104」のダイヤル方式導入広域案内の自動化・効率化4
1984年市外局番+「104」方式を全国展開全国的な案内の共通化完了4
1989年全国一律で「104番」に集約現代のサービス形態の完成4
1990年番号案内の有料化(1案内30円〜)コスト負担の適正化と需要抑制4
2026年サービス提供の全面終了デジタル化による役割の終焉1

平成元年のピーク時における文化的・経済的背景

104番の利用が最も活発であったのは、1989年(平成元年)度である。この年、年間の利用回数は約12億8,000万回という驚異的な数字を記録した4。これは、当時の日本がバブル経済の絶頂期にあり、ビジネスやプライベートにおける対人連絡が飛躍的に増大していたことを反映している11。当時は携帯電話がまだ一般的ではなく、待ち合わせの遅刻連絡や急な親戚の訪問などの際、外出先から公衆電話を利用して104番にかけ、相手の番号を調べるという行動が日常的であった11

この時期の104番は単なる「番号を教えるサービス」を超え、信頼性の高い社会的なインフラとして機能していた。コンピュータによる案内業務の全国拡大が完了したのもこの時期であり、1988年(昭和63年)には自動音声回答も開始され、大量の問い合わせを効率的にさばく体制が整っていた4。しかし、この「声による検索」の全盛期こそが、後に続くデジタル革命の前夜でもあったのである。

サービス終了を決定づけた構造的要因の分析

NTT東西が、130年以上の歴史を持つ看板サービスを終了させるに至った判断の背後には、複数の不可逆的な要因が絡み合っている。それらは主に「利用行動の変化」「経済的持続性」「環境負荷」の三点に集約される。

検索手段の多様化とスマートフォンの圧倒的普及

最大の要因は、説明を待つまでもなくインターネットおよびスマートフォンの普及である。2000年代以降、PCによるウェブ検索が普及し、さらに2010年代にスマートフォンが爆発的に普及したことで、電話番号を調べるプロセスは「人に尋ねる」ことから「自分で検索する」ことへと劇的に変化した8

現代の利用者は、GoogleマップやSNS、口コミサイトを通じて、電話番号だけでなく営業時間、現在地からのルート、写真、評価などを同時に取得している。これに対し、104番が提供できるのは「音声による番号案内」という一次元的な情報に限定されており、リッチコンテンツを求める現代のニーズとの乖離が決定定的となった8。利用統計によれば、2022年度の利用件数は約2,000万回にまで減少しており、ピーク時の約1.5%という水準にまで落ち込んでいる4

オペレーター維持コストと経済的合理性の限界

104番は、人間が対応することを前提とした労働集約型のサービスである7。システムの維持費に加え、24時間365日の対応を実現するためには膨大な人件費が発生する。利用件数が激減する一方で、人件費や教育コストは上昇傾向にあり、1件の案内にかかる相対的なコストは跳ね上がっている。

現在、104番の案内料は固定電話からで1回66円(2案内目以降99円)に設定されているが、この料金体系ではサービス全体の維持コストを賄うことはもはや不可能である8。特に、携帯電話からの発信における高額な案内料(例:ドコモでは440円)は、利用者側から見れば著しく不経済なものとなり、さらなる利用者の離反を招く結果となった8。事業継続の観点から見れば、需要のないサービスに多額の運営コストを投じ続けることは、他の通信インフラ投資を圧迫する要因ともなりかねない。

環境負荷低減とペーパーレス化の加速

104番は、紙の電話帳である「タウンページ」のデータベースと密接に連動している。NTTは今回のサービス終了に際し、紙資源の消費削減と環境負荷低減を重要な理由の一つとして挙げている3。タウンページの発行と104番の案内業務を同時に終了させることで、情報の収集・加工・提供のすべてのプロセスにおけるペーパーレス化とデジタルシフトを一気に推進する狙いがある8。これは、企業の社会的責任(CSR)やESG投資の観点からも、避けられない経営判断であったと言える。

紙の電話帳「タウンページ」の終焉とデータベースの行方

104番の終了と並び、社会に大きなインパクトを与えるのが「タウンページ(職業別電話帳)」の廃止である。104番のオペレーターが参照するデータソースはタウンページそのものであり、この二つのサービスは車の両輪のように機能してきた8

タウンページ最終版の発行と「iタウンページ」への承継

NTTは2025年から2026年にかけて、地域ごとに「タウンページ最終版」を順次発行し、長年の歴史を締めくくる予定である12。最終版の発行後は、すべての検索ニーズをインターネット上の「iタウンページ」へと集約させる方針だ2

iタウンページは、単なる紙の電話帳のデジタル化に留まらず、2024年秋には「地元を支える総合ライフポータル」としてリニューアルされた2。これにより、スマートフォンやPCに不慣れな層でも使いやすいデザインの採用や、自治体情報の拡充、こだわり条件による検索機能の強化など、利便性の向上が図られている2

サービス名従来の役割(アナログ)移行後の形態(デジタル)影響と展望
番号案内(104)オペレーターによる音声案内iタウンページ(ウェブ検索)自己完結型の検索へ移行
タウンページ職業別電話帳(紙冊子)iタウンページ / アプリリアルタイムの情報更新が可能に
情報データベース紙面掲載・案内用iタウンページデータベースカーナビや消防・警察システムへ提供
広告掲載紙面への広告出稿ウェブ広告 / リスティングデジタル集客の最適化が必要に

社会インフラとしてのデータベース維持

タウンページが果たしてきた役割は、個人の検索だけに留まらない。警察(110番)や消防(119番)の通信指令システムにおいて、通報場所を特定するための重要なリファレンスとして活用されてきたほか、カーナビゲーションシステムの目的地検索データとしても不可欠な存在であった2

これらの社会的に重要なシステムへの影響を最小限に抑えるため、NTTは「iタウンページデータベース」として後継のデータ提供サービスを継続する2。これにより、冊子体としての電話帳は消滅しても、その中身である「信頼性の高い位置情報と番号の紐付け」というインフラ機能は維持されることになる。

情報アクセシビリティの確保:障がい者支援の再編

104番の一般向けサービスが終了する中で、最も慎重な対応が求められるのが、障がいを持つ方々への配慮である。視覚障がいや肢体不自由により、スマートフォンの操作やウェブ検索が困難な人々にとって、104番は単なる利便性ではなく、社会参画のための必須の手段であった1

「ふれあい案内」の継続と運用変更

NTTは、障がい者向けに提供している無料番号案内サービス「ふれあい案内」を、104番終了後も継続することを明言している1。しかし、その運用形態は2026年4月1日より大きく変更される1

  1. 接続方法の変更: 現在の104番をダイヤルして申告する方式から、専用のフリーダイヤル(0120-104565等)への発信、あるいはFAX(0120-000104)による問い合わせへと移行する1
  2. 提供時間の見直し: これまでは24時間365日の対応であったが、利用実態に合わせた時間帯(例:午前9時〜午後5時など)への短縮が予定されている1
  3. 事前の再周知: すでに登録している利用者に対しては、2025年末までに具体的な変更手続きや利用方法の詳細が個別に送付される1

この再編は、サービス維持の持続可能性を確保しつつ、真に支援を必要とする層へのアクセシビリティを維持するための苦肉の策とも言える。しかし、提供時間の短縮は、夜間の緊急時や不測の事態における障がい者の情報アクセスを制限する可能性があり、その影響については今後も注視が必要である。

「点字電話帳」とFAX案内の行方

視覚障がい者向けの「点字電話帳」については、紙のタウンページ終了後も継続して発行される8。一方、耳や言葉の不自由な方向けの「NTTファクス104」は2026年3月末で終了するが、ふれあい案内登録者には継続して利用可能な枠組みが用意される予定である2

サービス区分2026年4月以降の状況備考
一般向け104終了iタウンページ等の代替手段を推奨
ふれあい案内継続専用番号への移行、時間帯見直し
点字電話帳継続視覚障がい者団体等への寄贈を維持
FAX104終了(※登録者継続)ふれあい案内登録者には代替手段を提供

デジタルデバイドと高齢者への支援策

104番終了に伴う最も広範な懸念は、インターネットを日常的に利用しない高齢者層、いわゆる「デジタル・フォロワー」が情報の孤立に陥ることである。彼らにとって104番は、地元の商店、病院、あるいは親戚の連絡先を知るための「唯一のデジタルインターフェース(人間による音声)」であった。

政府・自治体によるデジタル活用支援の現状

この課題に対し、総務省は「デジタル活用支援推進事業」を強力に推進している。2021年度(令和3年度)から5年間で延べ1,000万人の参加を目指し、携帯ショップや公民館を活用したスマートフォン講習会を実施している15

  • 予算投入: 令和2年度補正予算で11.4億円、東京都独自でも3億円など、多額の公的資金がデジタルデバイド解消に投じられている15
  • 個別自治体の先行事例:
    • 渋谷区: 65歳以上の未保有者に対し、スマートフォンを2年間無料で貸与し、併せて勉強会やサロンを開催して生活の質(QOL)向上を図っている15
    • 加賀市: マイナンバーカード対応スマホの購入助成や、常設の相談窓口を開設し、高齢者がいつでも疑問を解消できる体制を整えている15

「人間の声」を代替するアナログ・支援型サービスの模索

しかし、スマートフォンの操作を覚えることだけが解決策ではない。操作そのものが困難な高齢者のために、一部の自治体や民間企業では以下のような「アナログ・支援型サービス」の提供が始まっている7

  • 定期的な電話見守り: 孤独死防止と併せて、生活上の不明点を御用聞きするサービス。
  • シルバー向け電話代行: 特定の番号に電話をかければ、代わりに情報を検索して音声で回答、あるいは目的の番号へ転送する有料サービス7
  • 音声対応機器の導入: 複雑なボタン操作なしに、話しかけるだけで電話帳から発信できる専用端末の普及。

これらのサービスは、104番が果たしてきた「情緒的な安心感」を技術やコミュニティの力で補完しようとする試みである。

サービス終了の具体的なタイムラインと地域別の動向

104番の終了は2026年3月31日23時59分を一斉のデッドラインとしているが、それに至るまでのプロセスは地域や提供主体によって異なる2

受付締切日と最終版の申し込み

タウンページ掲載情報の変更や、最終版の配達を希望する利用者には、厳格な締切日が設定されている。これは、膨大な印刷・配布工程を逆算したものである2

  • 掲載・変更受付: 地域ごとに2024年10月から2025年7月にかけて順次締め切られる2
  • 最終版冊子の申し込み: 専用のWEBサイト(https://ntttp.jp/f1/index.php)またはフリーダイヤル(0120-303586)で受け付けている2
  • 通信事業者間の足並み: NTT東西だけでなく、ドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの携帯各社、および「誰でもスマホ」のような格安SIM事業者も、NTTの終了に合わせて104番への接続を順次停止する10

公衆電話における「104ボタン」の挙動

街頭に設置されている公衆電話についても、104番への接続は停止される。公衆電話はこれまで、利用時間等に関わらず案内料が無料(または10円程度の負担)とされてきたが、今後はその恩恵も受けられなくなる22。災害時等の通信制限下において、ウェブ検索が困難な場合に104番が果たしてきた予備的な役割をどう補完するかは、今後の防災通信計画上の課題となる。

経済的・商業的な波及効果と事業者への影響

104番とタウンページの終了は、情報を「提供する側」である事業者にとっても大きな転換を強いるものである。特に、長年タウンページの広告に頼ってきた小規模事業者や、地域密着型の店舗にとって、その影響は軽視できない7

広告媒体のシフトとデジタル・マーケティング

これまでタウンページは、信頼の象徴として多くの自営業者に利用されてきた。しかし、その廃止により、事業者は自らの手でデジタル上の「看板」を立てる必要性に迫られている8

  1. Googleビジネスプロフィールの重要性: 104番で番号を聞く代わりにGoogleマップで検索する層に対し、正しい電話番号、住所、営業時間を表示させることが死活的となる8
  2. iタウンページへの無料登録: NTTが提供する「Myタウンページ」機能を使えば、無料で情報を更新し続けることが可能であり、既存の顧客基盤を維持するための最低限の処置として推奨される2
  3. 高齢者へのリーチ手段の再考: インターネットを使わない顧客層に対しては、依然として新聞折り込み広告や地域のフリーペーパーなど、アナログ媒体への回帰、あるいは自治体を通じた広報が重要となる。

市場環境の変化と新たなビジネスチャンス

一方で、104番の終了は新たな「検索代行サービス」の市場を生む可能性もある。コンシェルジュ型の電話サポートや、AIを活用した自動応答案内など、従来はNTTが独占的に行ってきた業務が民間に分散され、よりパーソナライズされたサービスへと進化する契機ともなり得る。

通信ユニバーサルサービスの将来像と結論

電話番号案内「104」の終了は、日本のユニバーサルサービス制度(すべての国民が公平に、安定的に利用できるべきサービス)が、その定義を再構築すべき時期に来ていることを物語っている。かつては「固定電話」と「番号案内」がその中核であったが、今や「ブロードバンド環境」と「リテラシー教育」こそが、真の意味でのユニバーサルサービスになりつつある。

135年の歴史が遺した教訓

104番が135年にわたって示してきたのは、「情報は人と人が介在して初めて信頼に足るものになる」という価値観であった。機械的な検索結果が溢れる現代において、オペレーターが住所と名称を丁寧に確認し、正しい番号を告げるプロセスは、ある種の安心感を伴う儀式でもあった。サービスは終了するが、この「正確性と信頼性」をデジタル環境下でどう維持していくかが、NTTグループをはじめとする通信事業者の新たな使命となる。

提言と今後の展望

本報告書の分析に基づき、以下の結論を導き出すことができる。

第一に、「ふれあい案内」の周知徹底である。制度の変更により、障がい者が情報アクセスを諦めてしまうことがないよう、視覚・聴覚に配慮した多重的なチャネルでの広報が不可欠である。特に、音声ガイダンスによる電話通知など、ウェブ以外の通知手段を強化すべきである。

第二に、「iタウンページ」の徹底的なUI改善である。高齢者やデジタル弱者が迷わず検索できるよう、文字サイズ、音声入力機能、直感的なアイコン表示など、ユニバーサルデザインの極致を追求すべきである。単なる検索サイトではなく、地域社会を支える「インフラとしてのウェブ」を構築する責任がNTTタウンページ社にはある。

第三に、地域コミュニティによるサポート体制の強化である。公的な支援には限界があり、町内会や家族、ボランティアによるデジタル活用の「お節介な手助け」が、デバイド解消の鍵となる。

104番という「声の灯火」が消える2026年3月31日。それは、日本の通信が真の意味で「物理的な回線」から「情報のネットワーク」へと完全移行する記念碑的な一日となる。私たちは、その便利さを享受しつつも、かつて受話器の向こう側にいた「声」が守ってきた、繋がりへの優しさを忘れてはならない。通信技術の進化は、決して人間を孤立させるためのものではなく、より確かな絆を編むための道具であるべきだからである。

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