1月11日(日)午前9時から、NHK Eテレの『日曜美術館』にて、洋画家・**高島野十郎(たかしま やじゅうろう)**の特集が放送されます。
「この画家の名前を初めて聞いた」という方も、「あの蝋燭(ろうそく)の絵の人だ!」とピンときた方もいるでしょう。没後、急速に再評価が進み、今や展覧会が開かれれば多くの人々が静かに列をなす。
なぜ、彼の描く「徹底的な写実」は、私たちの心をこれほどまでに揺さぶるのでしょうか。番組の予習も兼ねて、その魅力と「慈悲」と呼ばれる理由に迫ります。
1. 「写実の極致」が「慈悲」に変わる瞬間
番組のサブタイトルにある**「それを慈悲といふ」**という言葉。一見、冷徹なまでに細部を写し取る「写実」と、包み込むような「慈悲」は正反対のものに思えるかもしれません。
しかし、野十郎にとって描くことは、対象の存在を丸ごと肯定することでした。
- 暗闇に灯る一本の**『蝋燭』**。
- 夜空にぽっかりと浮かぶ**『月』**。
彼は、対象が放つ光やその奥にある本質を、指紋一つ、埃一つ逃さないほどの執念で描き切りました。その「徹底的に見つめる」という行為そのものが、対象への深い愛であり、見る者への救い(慈悲)となって届くのです。
2. 異色の経歴:東大卒の「隠者」が選んだ孤独
高島野十郎の人生は、日本の近代美術史の中でも極めて異色です。
- 画壇との決別: 東京帝国大学(現・東京大学)を卒業というエリートコースを歩みながら、当時の美術界の派閥争いや流行を嫌い、生涯どの団体にも属しませんでした。
- 無名であることの自由: 彼は生前、ほとんど作品を売ることもなく、個展も数えるほどしか開きませんでした。「ただ描くこと」だけに人生のすべてを注いだのです。
- 晩年の暮らし: 千葉県柏市の、電気も通っていないような質素な小屋で、自炊をしながら黙々と筆を握り続けました。
富や名声には目もくれず、ただ真理を追い求めたその姿は、まるで修行僧のようです。
3. 私たちの心を打つ代表作
野十郎の作品を語る上で欠かせないのが、繰り返し描かれた「蝋燭」と「月」です。
『蝋燭』:闇を照らす一本の祈り
野十郎は生涯で数多くの「蝋燭」を描きました。暗闇の中に、ゆらりと立つ一本の炎。じっと見つめていると、その熱量や空気の揺らぎまで伝わってくるようです。それは単なる写生ではなく、人間の孤独や希望を象徴する「祈り」そのものに見えます。

『月』:静寂の彼方にある真理
野十郎の描く月は、どこまでも高く、冷たく、そして澄んでいます。夜空のグラデーションの美しさは、彼がどれほどの時間をかけて空を見上げ、その色を探求したかを物語っています。

4. 現代に生きる私たちが野十郎に惹かれる理由
情報が溢れ、何事もスピード解決が求められる現代。そんな中で、野十郎の絵の前では誰もが立ち止まり、静寂を取り戻します。
「一つのものを、ただひたすらに見つめる」
彼が一生をかけて貫いたこのシンプルな姿勢が、慌ただしい日々を生きる私たちの心に、深い癒やしと「自分自身に戻る時間」を与えてくれるのかもしれません。
5. 放送情報:日曜美術館「写実の極致 それを慈悲といふ 高島野十郎」
今回の『日曜美術館』では、野十郎が到達した境地がどのようにして生まれたのか、貴重な作品とともに紹介されます。
- 放送日: 1月11日(日)
- 時間: 09:00〜09:45
- 放送局: NHK Eテレ
一筆一筆に魂を込めた野十郎の「眼差し」を、ぜひ映像で体感してみてください。放送後、いつもの風景が少し違って見えるかもしれません。
