1. 導入:蛇口をひねれば水が出る、そんな「当たり前」を捨てた人々
2026年。メタバースが普及し、AIがあらゆる仕事を代替しつつあるこの時代に、なぜ私たちは「不便極まりない生活」を映した番組に、これほどまで心を揺さぶられるのでしょうか。
2月17日にBSテレ東で放送される『自給自足ファミリー2026冬』は、単なる「田舎暮らしの紹介番組」ではありません。それは、私たちが文明の利器と引き換えに失ってしまった「生きている実感」を、雪深い秘境から取り戻そうとする壮大なドキュメンタリーです。
蛇口からお湯が出ない。スーパーは車で1時間以上。スマホの電波すら怪しい。そんな環境で、しかし誰よりも瞳を輝かせて生きる家族たちがいます。彼らが選んだのは、「お金」ではなく「自らの手」で幸せを創り出すという、人類最古にして最新の生き方。この冬、一番温かな「答え」がここにあります。
2. 放送概要:2月17日夜、テレビの前が「囲炉裏」に変わる2時間
火曜日の夜7時から2時間の枠で放送されるこのスペシャル番組。BSテレ東(171ch)が長年追い続けている「自給自足」シリーズの、もっとも過酷で、もっともドラマチックな「冬編」です。
今回の特徴は、単に風景を映すだけでなく、登場する3組のファミリーや個人の「生活のディテール」に徹底的に密着している点にあります。120分という長尺だからこそ描ける、薪を割る音、雪を踏みしめる音、そして竈から上がる湯気の香りまでが、画面越しに伝わってくるような構成です。
録画をして、週末にゆっくりと。できれば温かい飲み物を用意して、自分たちの生活を見つめ直す「贅沢な時間」として楽しんでほしい一作です。
3. Case1:雪国に咲く5歳の笑顔。里山少女の「雪おやつ」と「玄米餅つき」
最初に出会うのは、里山で育つ5歳の少女です。彼女にとって、あたり一面を覆う大雪は、障害物ではなく「巨大な冷蔵庫」であり「おもちゃ箱」です。
彼女の「おやつ」は、降り積もったばかりの真っさらな雪。それに手作りのシロップをかけて頬張る姿は、飽食の時代に生きる私たちに、本物の「旬」とは何かを突きつけます。さらに家族で行う餅つきは、精米すら自分たちで行う「玄米」スタイル。
力いっぱい杵を振る父親、それを支える母親、そして周りで跳ね回る少女。玄米ならではの力強い香りと、噛みしめるほどに溢れる甘み。その一粒一粒に、春から秋にかけての労働の記憶が詰まっています。大雪の下から掘り出したばかりの「雪下野菜」の驚くべき甘さに目を見開く彼女の表情は、どんな贅沢なスイーツを食べるよりも幸福感に満ちています。
4. Case2:伝統の継承。34歳独身、技を磨く男の「塩ボタン鍋」
続いては、34歳の独身男性の暮らしです。彼は、かつてこの地で暮らしていた祖父母の家と技を守るために移住してきました。
「若者の移住」と聞くとキラキラしたイメージを持ちがちですが、彼の日常はもっとストイックで、地域に根ざしたものです。自ら猟に出て、仕留めた猪を自らの手で捌く。その工程には、命を奪うことの重みと、それに対する深い敬意があります。
彼が振る舞う「塩ボタン鍋」は、素材の良さを最大限に活かすため、あえて味噌や醤油を最小限にし、塩で勝負する逸品。祖父から教わった「肉の締め方」と「火の通し方」が、若い彼の感性と融合し、新しい地域の伝統へと昇華されています。モノづくりを愛し、壊れた道具を直し、近所のお年寄りから知恵を借りる。独身でありながら、地域という「大きな家族」に支えられた彼の生き方は、都会の孤独とは無縁の世界です。
5. Case3:夢の『自給民宿』。若夫婦が古民家で挑む「竈飯」の魔法
最後は、脱サラして「自給民宿」を始めた若夫婦の物語です。自給自足とビジネスの共立。それは非常に困難な挑戦ですが、彼らは「体験を売る」ことでその壁を乗り越えようとしています。
宿泊客が体験するのは、朝一番に鶏小屋へ行き、まだ温かい「産みたて卵」を拾うことから始まる一日です。そして、その卵を載せるのは、薪でじっくりと炊き上げた竈飯。スイッチ一つで炊ける炊飯器では絶対に出せない、あのお米の「立ち方」と「おこげ」の香ばしさ。
若夫婦は語ります。「自分たちが感じた感動を、誰かに手渡したい」。古民家を自分たちの手で修復し、自然のサイクルに合わせた接客を行う。それは、サービス業の原点であり、持続可能な観光の究極の形かもしれません。お金を稼ぐための仕事ではなく、自分たちの生き方そのものを商品にする。その覚悟と苦労、そして報われる瞬間の笑顔が、視聴者の胸を熱くします。
6. 自給自足の経済学:通帳の数字より「薪の数」が重要な理由
この番組の裏テーマは「新しい価値観の提示」です。自給自足生活では、日本円という通貨の価値が相対的に下がります。代わりに重要になるのは、冬を越すための「薪の備蓄量」であり、物々交換できる「野菜の出来」であり、いざという時に助け合える「隣人との信頼」です。
私たちは、将来の不安を解消するために貯金に励みます。しかし、彼らは「自分の手で何でも作れる、直せる」という技術を身につけることで、未来への不安を払拭しています。
「100万円持っているより、100kgの米を作れる方が安心」。この言葉には、2026年の不安定な世界情勢を生き抜くための、一つの真理が隠されています。番組は、彼らの家計簿を暴くことはしませんが、その豊かな食卓を見れば、彼らが「精神的な大富豪」であることは一目瞭然です。
7. マニアの視点:カメラが捉えた「湯気」と「吐息」の美学
ドキュメンタリー番組マニアとして、本作の「映像表現」には目を見張るものがあります。特に冬の撮影において、もっとも表現が難しい「寒さ」を、制作陣は「湯気」と「吐息」で見事に可視化しています。
竈から立ち上る真っ白な湯気。家族が笑い合うたびに漏れる白い吐息。これらは、その場所が氷点下であることを示すと同時に、そこに確かな「命の活動」があることを証明しています。
また、劇的な音楽で盛り上げるのではなく、あえて環境音を大切にしている点も高評価です。雪が屋根から落ちるドサッという音、薪が爆ぜるパチパチという音。これらの音が、視聴者の脳内に眠る「野生の記憶」を呼び覚まします。4K画質が捉える雪の結晶の質感から、古民家の煤けた柱の光沢まで、視覚情報が豊かであればあるほど、自給自足の「手触り」がリアルに伝わってくるのです。
8. まとめと今後の期待:2026年、私たちの「居場所」はどこにある?
『自給自足ファミリー2026冬』を見終えたとき、私たちの心に残るのは「自分ならどこで、どう生きたいか?」という静かな問いです。
秘境に住む彼らが特別に強い人たちなのではありません。彼らも迷い、失敗し、寒さに震えながら、それでも「自分の人生の手綱を自分で握る」ことを選んだ普通の人たちです。番組が映し出したのは、2026年という時代における、新しい「豊かさの定義」でした。
次はどんな季節の物語が届くのでしょうか。雪が溶け、芽吹きが始まる春、自給自足ファミリーたちはまた新しい「戦いと喜び」の季節を迎えます。その時まで、私たちは今の生活の中で、自分にできる「自給」を少しだけ始めてみるのもいいかもしれません。
